乳腺と向き合う日々に

2024.04.04

上皮内乳管癌(DCIS)の女性を手術または放射線療法で治療する必要性 その2

DCIS治療の目標を明確にする

米国の DCIS 患者の多くは、将来に浸潤性乳がんまたは転移性がんを発症する可能性と、これらの望ましくない結果を回避するためにどうしたらいいのか、化学治療やホルモン剤をするかどうか、選択肢について混乱しているという報告があります。

DCIS の治療目標を明確にします。

第一には その後に発生する浸潤がんを予防することです。

第二の目標は、対側がん、遠隔再発、乳がんによる死亡を予防することです。

切除による治療後に 乳房内で浸潤性のがんが再発するリスクは、DCIS後と 浸潤性乳がん後で差がありません。

ウィメンズ カレッジ病院のデータベースでは、DCIS 後の 15 年間の浸潤性局所再発リスクは 15.6% でした。ステージ 1 の浸潤性乳がんの後では 15.3%、ステージ 2 の浸潤性乳がんの後では 15.9% でした。

患側の浸潤性乳がん発生のリスクを下げるための放射線療法のメリットも、 DCIS 患者とステージ 1 または 2 の乳がん患者で同様でした。Banting データベースでは、患側の浸潤性乳がん再発の 15 年リスクは、放射線療法を受けた DCIS 患者では 14%、放射線療法を受けなかった DCIS 患者では 29% であり、その差は 15% でした。対側に浸潤性乳がんが発生するリスクは、DCIS 後も浸潤乳がん後も同じです。

これらの研究と NSABP 試験から、乳房切除術と放射線療法によって、 DCIS と浸潤がん、両方の局所再発を全く同様に予防するが、乳がんによる死亡は予防できないことを学びました。

乳房切除術、放射線療法、または両側乳房切除術の最終的な利益は、DCIS の女性にとっても、早期浸潤がんの女性にとっても同じであると思われます。では、局所的な治療は同じであるのが合理的ではないでしょうか?

目標1 その後に発生する浸潤がんを予防する それは患側の再発、対側のがんの発生を含みます。

まず患側の浸潤がん(ここではDCISとは異なり、転移する能力を有するがんという意味です)も、対側のがんも、DCIS患者さん、Stage Iの浸潤がん患者さん、そしてStage IIの浸潤がん患者さんで差がないことを示しました。

目標2 対側がん、遠隔再発、乳がんによる死亡を予防する

たしかに全摘する、放射線治療をすることで、患側局所の再発は予防できます。しかしそれはDCIS患者さん、Stage Iの浸潤がん患者さん、そしてStage IIの浸潤がん患者さんで差がありません。そして全摘をしても、放射線治療を付加しても、つまり局所治療を徹底しても、乳がんによる死亡は抑制できませんでした。

それならば Stage 0のDCIS、Stage Iの浸潤がん、Stage IIの浸潤がんで治療方針が異なることはおかしいといえます。少なくともここで示した局所に対しての治療(手術、放射線治療)の方針は同じであるべきです。

DCISに全身治療(ホルモン剤や抗がん剤による治療を加えるべきか)

DCIS 後の乳がんによる死亡を減らしたい場合は、DCIS 発生時、または局所浸潤性再発時のいずれかに全身療法を施すことを検討する必要があります。タモキシフェンには生存上の利点があるかもしれませんが、私の知る限り、DCISに対するタモキシフェンの死亡率の抑制効果は現在証明されていません。タモキシフェンはがんの発生そのもののリスクを軽減しますが、がん死亡率に対する効果はまだ確認されていないのです。

DCISによる死亡の平均リスクは0ではありませんが大変低いものです。実際には3から6%とされます。それを予防するために全身療法、特に抗がん剤による治療を付加しても、メリットを受ける人はどう見積もってもDCIS患者さんの20人に1人に過ぎず、化学治療ですべての再発が防げるものではありませんから、その数字はさらに低いものになります。副作用が強い抗がん剤使用を正当化するには低すぎます。

しかし将来の死亡のリスクがはるかに高い(たとえば12%)DCIS患者のサブグループを特定できたらどうなるでしょうか? そうすれば化学療法は正当化されるだろうと主張する人もいるかもしれません。

Mannu Dr.らは、検診発見されたのではないDCIS症例は、検診で発見されたDCIS症例よりも死亡リスクが驚くほど高いことを指摘しました。(検診発見された DCIS の女性の20年後における死亡率は4.4%、それ以外の方法で発見された DCIS の女性では 6.1%)
Mannu GS, Wang Z, Dodwell D, 他:英国における1990年から2018年までの浸潤性乳がんと非スクリーニング検出後の上皮内乳管がんによる乳がんによる死亡:人口ベースのコホート研究. BMJ 384: e075498, 2024.

死亡率が上昇する危険因子には、それ以外にも、診断時の年齢が若いこと、黒人人種、病巣が多いこと、微小浸潤、腫瘍サイズ > 25 mm などがありました。

若い黒人女性の間で、DCIS により死亡するリスクは 10% に近づきます。 Mannu らの研究では、45 歳未満で診断された患者の 25 年間の乳がん死亡リスクは 7.6% でした。

筆者から

このコラムでスティーブン・A・ナロッド医学博士は、「私は、まだ DCIS から「がん」という言葉を取り除くべきではないと思います」と結論付けています。

私自身は DCISの患者さんで局所再発は何例も経験していますが、それによる死亡例はほとんど経験していません。

温存にせよ、全摘にせよ、術後の乳房や皮膚に再発病変が発見された時、それがDCISであることはほとんどなく、ほぼ浸潤がんの形式をとっています。それがいわゆる最初の治療の”取り残し”なのか、それとも新しく発生したがんなのかは確定する方法がないため、いつも悩みの種でした。今回 Mannu先生の論文は20年の経過観察からですから、10年以上たって術後の乳房にがんが出てきても再発とは考えない先生も多いでしょう。

ただそういった局所再発が発生する確率がDCISでも浸潤がんでも差がないのだとしたら、少なくとも浸潤がんで建てられる治療方針と DCISでの治療方針で差が有ってはいけないでしょう。浸潤がんを温存切除したら放射線治療を加えるのなら、DCISもそうするべきです。大きな浸潤がんは温存切除の対象にならないなら、大きなDCISも全摘するべきです。

DCISの手術後に、浸潤がんとして再発すれば、浸潤がんとして必要なホルモン剤、抗がん剤など、全身治療を加えるべきです。ただ他臓器への遠隔転移として再発すれば、もはや治癒は望めません。私自身はDCISから、浸潤がんでの局所再発を経ることなく、いきなり遠隔転移をきたした患者さんの経験はありません。ただMannu先生によれば、DCIS治療後の死亡例は意外にも多いことが示されています。当然、DCIS後に局所再発を経たにせよ、経ていないにせよ、最終的には遠隔転移をきたし、亡くなったということになります。

DCIS後に、補助的に全身治療をすることは賛成できません。

しかしもし局所に浸潤がんで再発をきたした場合は、DCISの経過は関係なく、浸潤がん、それも警戒をようするものとして治療は全力を尽くすべきと言えると思います。やはりがんはがんだ、という考え方に賛成します。