乳腺と向き合う日々に

2025.10.24

乳腺良性疾患の取り扱いについて・・・その1

先日、乳腺の良性疾患、特に線維腺腫や良性の葉状腫瘍を中心に、その取扱いについてのガイドラインが米国で出されました。我々医師にとっても重要な指標になります。できるだけ皆さんにもわかりやすいように長くなりますが、全文を訳してみたいと思います。
American Society of Breast Surgeons and Society of Breast Imaging 2025 Guidelines for the Management of Benign Breast Fibroepithelial Lesions Breast Imaging 2025 Guidelines for the Management of Benign Breast Fibroepithelial Lesions JAMA Surg Published Online: October 22, 2025 doi: 10.1001/jamasurg.2025.4392

最初に

米国では2025年に、30万件を超える新たな乳がん症例が診断されると推定されています。しかしそれよりももっと多くの女性が、医療的あるいは外科的な処置を必要とすることの多い良性の乳腺疾患を発見され、診断されています。マンモグラフィ検診の広範な普及や、近年ではトモシンセシス(3Dマンモグラフィ)が検診に日常的に導入されるようになったことにより、針を刺して乳腺の組織の一部を採取して検査する経皮的コア針生検(core needle biopsy)の件数も増加しています。

良性乳腺疾患とされる病態は非常に多くみられるにもかかわらず、これらの疾患の管理に関するガイドラインはほとんど存在しません。良性乳腺疾患は乳腺に影響を及ぼす幅広い病態を含んでおり、その治療方針は時代とともに変化しています。

かつては当たり前に切除されていた多くの病変が、現在では経過観察されるようになってきました。
感染性・炎症性疾患についてはより複雑化しており、その管理戦略をめぐって議論が続いています。

良性乳腺疾患の管理に関して一定のコンセンサスを作成するため、アメリカ乳腺外科学会は、乳腺画像学会(SBI)と協力して、すでに証明された医学的な事実に基づき、専門家の合意形成によって策定された管理ガイドラインを作成するための運営委員会を設立しました。
この良性乳腺疾患ガイドラインの策定は、アメリカ乳腺外科学会の使命――すなわち「乳腺疾患患者のケアにおいて卓越性を追求する外科医の代弁者として、乳腺外科の実践を継続的に改善する」という目的――に沿った取り組みです。

運営委員会は、ガイドライン策定が特に求められる4つの分野を特定しました:
1 良性線維上皮性病変(benign fibroepithelial lesions; FELs)
2 感染性・炎症性病変
3 異型増殖性病変/高リスク病変(proliferative lesions with atypia or high-risk lesions)
4 その他の良性乳腺病変
これら4領域はいずれも、管理法が限られている・議論が多い・過去10年間で大きく変化した良性乳腺疾患をほぼ包含しています。

本ガイドラインで示される「良性線維上皮性病変の管理」には、線維腺腫(fibroadenoma)および良性葉状腫瘍(benign phyllodes tumor; BPT)が含まれます。
なお、本ガイドラインにおいて「線維腺腫」とは、特に明記がない場合、上皮性の異型を伴わない線維腺腫を指します。(注:これに関しては以前から”複雑型”と分類されている、線維腺腫、あるいはその周囲の乳腺上皮細胞に異型があるもの、これを除く、と定義しているようだ。異型というのは、乳がんが発生されるといわれる乳腺上皮細胞と呼ばれる細胞に、顕微鏡で見たときに例えば大小不同があったり、あるいは細胞の構築に乱れがあったり、あまり正常な状況では見られないものが認められた際に使われる用語である。もちろん癌細胞はすべて異型な細胞である。型にはまらないという意味にとっていただいてもいい。)

方法とこの良性乳腺疾患ガイドラインの限界

アメリカ乳腺外科学会(ASBrS)の特別運営委員会(ad hoc Steering Group; SG)は、乳腺画像学会(SBI)と協力して、新たに開発された良性乳腺疾患(Benign Breast Disease: BBD)管理ガイドラインの策定・執筆・公表を監督しました。

これらのガイドラインは、以下の医療従事者を対象としています:一般外科医および乳腺外科の専門医 放射線科医 高度実践看護師(advanced practice practitioners) 産婦人科医 内科・家庭医などのプライマリケア医 研修医・専攻医 

特別運営委員会は、各疾患の有病率・臨床的特徴・治療的特徴に基づいて、良性疾患の分類群(補足資料 )を定めました。本ガイドラインの範囲は、診断後の良性疾患の管理に限定されており、診断に至るまでの過程は対象外です。本ガイドラインの前提として、画像検査結果と生検による病理診断が一致している場合において、良性乳腺疾患全般での整合性が確保されているものとします。(注:つまり画像上もそこから行われた診断過程において、憂いなく、間違いなく、良性疾患と診断されたものについての取り扱いについて述べている、と前振りしているのです。一部でもがんの合併が疑われるようなものは外しているということです。)

また、「年齢に応じたスクリーニング(age-appropriate screening)」とは、年齢およびその他の乳がんリスク因子を考慮した検診を意味します。

良性線維上皮性病変(benign fibroepithelial lesions; FELs)に関しては、高品質な無作為化試験(RCT)が限られており、エビデンスの質が不十分であるため、文献の「グレーディング(エビデンスレベル付与)」は行いませんでした。無作為化臨床試験、メタアナリシス、系統的レビューを優先しましたが、それらが存在しない場合はコホート研究や症例対照研究も採用しました。ただし、10年以上前の研究や症例数100例未満の研究は除外しました。

多くの推奨項目は、非無作為化研究や専門家の意見・解釈に基づいています。したがって、同分野の他の専門家が本ガイドラインの一部推奨に異議を唱える可能性があることを認識しています。

最終的な推奨の強度は、専門家パネル内での合意度および一般から寄せられたコメントによって決定されました。

分類

見出し(Header)

感染・炎症性病変

肉芽腫性乳腺炎 Granulomatous mastitis (GM)

授乳期乳腺炎 Lactational mastitis (LM)

いわゆる乳輪下膿瘍(乳管の扁平上皮化成に伴う乳管周囲炎)Periductal mastitis with squamous metaplasia of lactiferous ducts (PDMSMOLD) 

良性 線維上皮性病変

線維腺腫 Fibroadenomas Fibroepithelial lesions (FEL)

良性葉状腫瘍 Benign phyllodes tumors (BPT) 

異型を伴う、ハイリスクな増殖性病変

Atypical ductal hyperplasia (ADH)

Lobular neoplasia: atypical lobular hyperplasia (ALH)

Lobular carcinoma in situ (LCIS)(all types)

Flat epithelial atypia (FEA) 

注:癌にまでは至らないものの、リスクが高い病理学的な変化を指しています。これに関しては専門の人間でなければ分からないと思います。ここでは解説しないでおきます。

その他の病変

乳頭腫 Papillomas

Radial scars/sclerotic disorders 

Pseudoangiomatous stromal hyperplasia (PASH)

硬化性腺症 Sclerosing Adenosis 

注:これもそう診断されたことのある方でなければ参考にはならないと思います。

続きます。