乳腺と向き合う日々に

2025.10.25

乳腺良性疾患の取り扱いについて・・・その3 (良性葉状腫瘍)

ASCOから乳腺の良性疾患の取り扱いに関するガイドラインが出ました。良性疾患についてはそもそも研究がなされる機会が少なく、治療も含めて対応方法がしっかりと示されていませんでした。ここでは学会として初めて指針を出した点で、我々医師にとっても大変重要なものになります。

今回は良性葉状腫瘍の取り扱いについて触れている表を示します。

Table 2. 良性葉状腫瘍(BPT)の管理に関するガイドライン
項目 合意

1. 一般的コメント

1a. 良性葉状腫瘍(BPT)患者では、乳がん・卵巣がん・膵がん・大腸がん・肉腫・Li-Fraumeni関連腫瘍などを含む包括的ながんの家族歴を取得し、遺伝性腫瘍症候群が疑われる場合は遺伝カウンセリング/遺伝学的検査を検討すべきである。 強い合意

2. 画像診断

 2a. 手術的生検前には、すべての患者で年齢に応じた対側乳房の診断画像検査を行うべきである。 強い合意
2b. BPTと診断された患者に対しては遠隔転移の評価は不要である。 強い合意

3. 外科的切除の適応

3a. 乳腺コア生検で線維上皮性病変(FEL)と報告された場合、その病変は外科的切除の対象とすべきである。 強い合意
3b. コア生検または吸引式生検で葉状腫瘍の疑い否定できない、あるいは懸念が示された病変は、外科的切除生検を行うべきである。 強い合意

4. 手術手技

4a. コア生検で線維上皮性病変(FEL)と診断された患者では、陰性切除縁を意図せず、病変の完全切除を行うことが推奨される。 強い合意
4b. 葉状腫瘍の疑い・否定不能・懸念を示す病変に対しても、腫瘤を切断または細断せず完全切除を行うべきである。  強い合意
4c. 線維上皮性病変(FEL)または良性葉状腫瘍の切除においては、局在化法の手法に優劣はない。必要に応じて選択すればよい。 強い合意
 4d. 急速な増大・多数の有糸分裂像・間質拡張を伴う大きな線維上皮性病変(FEL)または良性葉状腫瘍では、陰性マージンを確保する切除を考慮してよい。
強い合意
4e. 良性葉状腫瘍に対して細断・切断を伴わない完全切除が行われた場合、陰性切除縁は不要である。 強い合意
4f. 良性葉状腫瘍不完全切除であった場合、腫瘤が切断されていた、あるいは残存病変が疑われる場合には、再切除を考慮すべきである。
(この記載は4e、4gと矛盾して読める。これは外科医はとり切れている、と判断している、けれども病理医は顕微鏡で見ると残っている可能性がある、と診断された場合を想定するとわかる。外科医が取りきれたと判断しているのなら、顕微鏡レベルで残っている可能性が示唆されても再切除は不要、と述べている)
強い合意
4g. 良性葉状腫瘍で腫瘍陽性マージンがあっても、再切除は不要である。 強い合意

5. 非手術的管理

5a. 良性葉状腫瘍患者に対しては、陽性マージンを含むいかなる場合でも放射線治療は不要である。 強い合意

6. フォローアップ

6a.線維上皮性病変(FEL)や葉状腫瘍の疑い病変が外科的切除されなかった場合は、臨床診察および同側乳房の画像検査6・12・24か月後に実施して経過を観察すべきである。24か月経過後に変化がなければ、通常の年齢別乳房検診に戻ってよい。 強い合意
6b. 良性葉状腫瘍を切除済みの患者は、年齢に応じた通常の乳がん検診を継続するよう推奨される。 強い合意

線維上皮性病変(FEL)の診断に関して病理医間で差があるため、臨床医は施設内の病理医と報告基準について相談すべき。施設によっては線維腺腫と線維上皮性病変(FEL)を区別せず報告することがあり、その場合でも臨床的・病理学的に良性葉状腫瘍が疑われる病変は切除すべきとされる。