乳腺と向き合う日々に

2025.10.25

乳腺良性疾患の取り扱いについて・・・その4

線維上皮性病変(FEL)、線維腺腫(Fibroadenoma)、および良性葉状腫瘍(BPT)に関するガイドライン

線維上皮性病変(Fibroepithelial Lesions; FEL)は、線維腺腫(fibroadenoma;FA)葉状腫瘍(phyllodes tumor; PT)の両者を含みます。これらはいずれも上皮成分と間質成分を併せ持つ二相性腫瘍(biphasic tumor)であり、構造的にも類似しています。
(乳腺は間質成分に支えられる上皮成分(ミルクを作って運ぶ)で構成されています。ケーキのクリーム(上皮)とスポンジ(間質)みたいなものです。これがしっかり分かれているのが良性、つまり二層性が保たれているといいます。がんではこの二層性が壊れてごっちゃになっているのが特徴です。ちなみに”相”と”層”がごっちゃになっていますが、故意に使い分けています。)

初期のゲノム研究では、線維腺腫は上皮成分・間質成分のいずれも主にポリクローナルであることが示されました。これは、線維腺腫が刺激によって起こる可逆的な過形成であることを示唆しています。(注:これも難しいです。クローナル(clonal)**とは、「1つの細胞が異常を起こして増殖し、同じ性質をもつ細胞集団(クローン)をつくること」を意味します。モノクローナル(monoclonal)であれば、がんや腫瘍のように、1個の細胞の遺伝子変化から始まった異常な増殖を示唆します。一方、ポリクローナル(polyclonal)とは、「複数の細胞がそれぞれ独立に増えている状態」であり、特定の“がん化細胞”が優勢になっているわけではありません。
つまり、ポリクローナルな増殖は、がんのように異常をきたした細胞が増え続けてしこりになっているのではなく、いろいろな細胞がそれぞれで増殖しているので、反応性・過形成的(非腫瘍性)な増殖を意味します。ただ線維腺腫ではMED12という遺伝子に異常をきたしていることも指摘されており、あくまで現時点ではそう考えられている、ということにとどまります。)

ChatGPT Image 2025年10月25日 10_33_41

線維上皮性病変(FEL)の診断に関して病理医間で差があるため、臨床医は施設内の病理医と報告基準について相談すべきとされます。施設によっては線維腺腫と線維上皮性病変(FEL)を区別せず報告することがあり、その場合でも臨床的・病理学的に良性葉状腫瘍が疑われる病変は切除すべきとされます。

臨床的にもこの考えは支持されており、

・思春期や妊娠期にみられるホルモン依存性の発育

・通常2〜3 cm程度で成長が停止すること、

・時間の経過とともに自然退縮すること、
などがその根拠です。

一方で、葉状腫瘍も上皮成分はポリクローナルですが、間質成分は主にモノクローナルであり、これは腫瘍性に増殖していることを示唆します。そのため、時間経過による成長停止や病変が自然に小さくなることがないのが特徴です。

良性葉状腫瘍と診断された患者では、多世代にわたる家族歴を確認することが推奨されます。また、個人や家族のがん歴を踏まえた上で、生殖細胞系列遺伝子検査*の実施を検討する必要があります。
最近の研究では、葉状腫瘍患者250例のうち12.1%において、病的または病的の可能性が高い生殖細胞系列変異が認められ、その半数以上が常染色体優性遺伝のがん関連遺伝子に存在していました。


診断精度と生検の役割

画像所見と一致する乳腺コア針生検は、線維腺腫の診断において非常に高い精度を示します。しかし、一部の症例では線維腺腫と葉状腫瘍の鑑別が困難な場合があり、そのような症例では良性線維上皮性病変(benign FEL)という診断名が用いられることがあります。

一般的に、コア針生検は低い偽陰性率を持ち(がんを、誤ってがんではないと診断してしまうことを、偽の陰性として偽陰性と呼びます)乳腺疾患診断の標準的手法とされています。

また、アメリカ放射線学会が定める「超音波ガイド下経皮的乳腺介入手技の実施基準によれば、超音波ガイド下のコア生検は外科的切除生検と同等の精度を有すると報告されています。