乳腺と向き合う日々に

2025.12.20

乳がん検診の課題 検診と予防の結合の観点から

たとえば、高濃度乳腺と呼ばれる、乳腺の密度が高い方では、マンモグラフィ検診の有効性が落ちるだけではなく、乳がんのリスクそのものも高いことが指摘されています。乳腺の濃度は、若年者はもちろん出産経験のない方では高い傾向があります。現在のような少子化の時代では女性の大部分が高濃度乳腺科、不均一高濃度乳腺に属しているため、この問題は検診の現場においても、また検診をどのように受けていけばいいのかについても大きな影響を及ぼしています。

2025年12月 ドイツ・RWTHアーヘン大学の Christiane Kuhl 医師(MD, PhD) により、シカゴで開催された 北米放射線学会(RSNA)年次総会 において発表された、FDA(米国食品医薬品局)に最近承認された画像のみを用いるマンモグラフィ診断のための人工知能(AI)モデルを用いた研究結果では、米国および欧州から集められた24万件超の両側2Dスクリーニングマンモグラフィを対象とした解析において、AIによって高リスク群(National Comprehensive Cancer Networkの基準に基づいて分類)と判定された群は、平均リスク群と比べて乳がん発症率が4倍以上高かった(5.9% 対 1.3%)ことがわかりました。

Kuhl氏によれば、AIによるリスク評価では、「平均リスク女性において、観察された5年乳がん発症リスクが、設定された(想定)リスク値とほぼ完全に一致しており、同様にリスク上昇群でも良好な一致が見られ、さらに高リスク群と分類された女性では、はるかに高い発症率が観察されました」

さらに「乳房密度評価には問題があり、放射線科医によって判断が異なる」と述べています。
「AIによって自動化された乳房密度評価は、放射線科医による評価との相関が乏しく、従来の密度に基づくリスク認定は不正確であり、追加のスクリーニング方針を決定する目的には、おそらく有用ではありません」。(筆者注:我々医師が濃度が高いとか低いとか判断していますが、それと乳がんのリスクはそれほど相関していないことを指摘されています。AIで自動的に判断されたもののほうがはるかにリスク評価に役に立った、彼女はそう述べています。)

「AIモデルは、マンモグラフィから乳房密度をはるかに超える多くの情報を抽出することができます」とKuhl氏は続けました。「マンモグラフィにおける線維腺組織(乳腺実質)のテクスチャを解析し、それを用いて5年乳がんリスクをより包括的に推定できるのです」。
「このモデルは、人間の目では見えない乳房組織の変化を検出することができます。これは放射線科医には担えない作業です。検出や診断とは別次元のタスクであり、AIの力と画像に潜在している未活用の情報を活かすことで、まったく新しい医学の分野を切り開くでしょう」。

米国ではマンモグラフィ検診にAIが導入され、すでに実践に用いられていることがわかります。またAIによる乳腺実質そのものの評価によって、乳がんがその後に発生するリスクすら判定できる、つまり予防の観点から個別の検診スケジュールを提案するレベルにいたっていることも同時にわかります。

最近発表された研究においては、合計 42,236 件の 2D マンモグラフィー検査を受けた 42,100 人の女性で、単独の放射線科医による読影、2 人の放射線科医による読影、人工知能 (AI)による読影 (Transpara バージョン 1.7.0、ScreenPoint Medical)、そして ”AI を補助に使った一人の放射線科医による評価”を比較しました。

研究著者らは、  ”AI を補助に使った一人の放射線科医による評価”が、放射線科医二人による二重読影(51.7%)、放射線科医一人による評価(46.9%)、単独AI(48.6%)と比較して、最も高い感度(がんをがんとして発見する)(60.2%)を示したことを明らかにしました。また、 ”AI を補助に使った一人の放射線科医による評価”は、二重読影(97.7%)、放射線科医単独による読影(97.7%)、単独AI(97.8%)と同等の特異度(がんでないものをがんでないと否定する)(95.8%)を示しました。

研究者は「AIは、人間による評価では発見される乳がんを見逃す一方で、読影を行う放射線科医が見逃す乳が​​んを同程度検出します」と述べています。つまりAIは人間の読影を補填するのです。

このように今後はAIを用いて検診をし、さらに予防の観点からがんそのもののリスクすら評価を行っていく時代が来ています。しかしAIの導入はいいことばかりではありません。たとえば・・・

大腸内視鏡検査は、ポリープ(腺腫)の検出と除去を可能にし、大腸がんの発生を予防します。この分野においても、多くの試験において、大腸内視鏡検査にAIを活用することで腺腫の検出率が向上し、AI技術への関心が高まっていることが示されています。

しかしBudzyńらがThe Lancet Gastroenterology & Hepatologyに発表した論文によれば、大腸内視鏡検査を支援する人工知能(AI)の導入と日常診療における使用によって、AIの支援なしで大腸腺腫を検出する内視鏡医の能力の低下につながる可能性があることが示されました。

本研究は、2021年9月から2022年3月にかけて、ポーランドの4つの大腸内視鏡検査センターで実施されました。 AI非併用大腸内視鏡検査における腺腫検出率は、AI曝露前の28.4%(n = 226/795)からAI曝露後の22.4%(n = 145/648)へと有意に減少し、相対的に20%、絶対的に6%の腺腫検出率の低下に相当しました。AI併用大腸内視鏡検査では、腺腫検出率は25.3%(n = 186/734)でした。

検診分野へのAIの導入は、がんの発見率の向上に役立つばかりか、たとえば乳がんリスクの評価につながるなど、さまざまな福音をもたらしますが、検診に関与する医師に、けっしていい影響ばかり与えるわけではなさそうです。それに頼るあまり、どうしても”さぼって”しまい、日常の検診の中で同時に行なわれている”訓練”の密度も落ちるため、能力の低下につながるのです。これは簡単に予想できることでもありますよね。つまりいったんAIを導入すれば、AIのなかった時代には戻れない、ということです。

今後は その個人個人のたとえば家族歴、既往歴、そして出産歴などの評価に加えて、乳腺そのものの評価、生活習慣の評価などをAIを用いて評価して、その人その人に応じた検診のスケジュールや内容を提示していく時代が来ると思われます。

またたとえばBRCAという遺伝子を持たれたHBOC症候群の女性では、予防的に乳房切除を行うこともすでにわが国では保険適応とされており、乳がんの予防も可能になっています。
そこまでのことはできなくても、たとえばホルモン剤を予防的に投与され、引用している女性も海外では普通におられるようです。わが国ではまだそれは保険適応とされていませんし、それを管理する医療施設も整っていません。

AIの力を借りて、個別にリスクを”評価”し、その方に応じた”検診”を提示、施行し、可能であれば”予防”する、ことがすでに試みられ始めています。

2025年はお世話になりました。
このコラムを読んで、遠方からセカンドオピニオンに来てくださった方もおられました。その方々からいただいたお言葉も大変励みになりました。
来年も張り切って記事を書いていきますので、よろしくお願い申し上げます。