乳腺と向き合う日々に

2021.09.28

ホルモン剤を飲んで、治療するということを、もう一度考える。第3回

タモキシフェンとアロマターゼ阻害剤はどう使い分けられるのか?

乳がん術後にホルモン剤を飲まれている方は多いと思います。
乳がん患者さんの6から7割の方が飲用されているでしょう。

先の第2回で、ホルモン剤には大きく分類して、SERMと呼ばれるタモキシフェンやトレミフェンと、アロマターゼ阻害剤(AI)と呼ばれるアリミデックス、アロマシン、フェマーラがあることはすでに述べました。これらはどう使い分けられているのか、ここで考えてみたいと思います。

まず第2回で、閉経後にはタモキシフェンも、AIも効果がある。
閉経前ではAIは効果がない
説明をしました。

そこで使い分けで悩むのは閉経後の乳がん患者さんになります。

卵巣機能を抑制するLH-RHと呼ばれるゾラデックス、リュープリン(注射薬)があります。
原則として上記2種の薬の補助として使われています。LH-RHは視床下部に働きかけて、閉経状態を作り出す薬です。したがって閉経前の方、あるいは閉経が確定していない方に使って閉経状態とするために使います。閉経前の方もLH-RHを使用すれば閉経後と同じ状況になるわけです。

特殊な場合を除いて単独で使われることは少なく、SERM、あるいはAIを同時に使います。
LH-RHを使っておられれば、閉経前であってもSERMとAIの使い分けに関して悩むことになります。

患者さんの中には、閉経前がタモキシフェンなどSERM、閉経後はアリミデックスなどAIと単純に覚えられている方も多いようですが、ここまで読むとそうではないこともわかっていただけたと思います。閉経前であってもLH-RHの併用下にAIを使うことがあり、閉経後であってもSERMを使うことがあるからです。
ただアストラゼネカ社のHPからアリミデックスの薬剤情報を確認すると、この薬剤は”閉経後乳癌”が適応である、とはっきり記載されています。閉経前にAIを使う場合はなにか理由があるから、であることもそこからわかります。通常であれば保険も通らない使い方になるのです。

第2回で述べたように、AIは原則として閉経後の乳がん患者にしか効果を期待できません。
60歳以上の方であればほぼ閉経していると考えていいのですが、50歳前後の方ではまだ不安定であり、閉経しているかどうか確定していないことがあります。婦人科に行けば簡単に調べられますが、そうしない限り50-60歳まではあいまいなことが普通です。AIはその薬剤としての性質上、卵巣でエストロゲン(女性ホルモン)が作られていると、それを抑制できないので、効果が期待できなくなります。SERMは閉経の有無を問いませんので、考慮する必要はありません。その点では有利です。つまりSERM、AIを単独(LH-RHを使わずに)使用するのであれば、60歳まではSERMを使っておけば間違いはないのです。
もっといえば60歳以上、閉経後であってもSERMは効くので、あえてAIを使用しなくてもいいのです(下記の図を参照)。

AIを使うには、あえて使う理由がある、からなのです。

日本乳がん学会が提案している診療ガイドラインにはどのように記載しているでしょうか。
引用します 下記のように記載されています

閉経後の乳がん患者さんへのホルモン剤治療に関して

推 奨
アロマターゼ阻害薬の投与を強く推奨する。
〔推奨の強さ:1,エビデンスの強さ:強,合意率:100%(12/12)〕

タモキシフェンを2~3年投与後に,アロマターゼ阻害薬に変更することを弱く推奨する。
〔推奨の強さ:2,エビデンスの強さ:強,合意率:92%(11/12)〕

アロマターゼ阻害薬を2年投与後にタモキシフェンに変更することを弱く推奨する。
〔推奨の強さ:2,エビデンスの強さ:弱,合意率:83%(10/12)〕

タモキシフェンあるいはトレミフェンの投与を弱く推奨する。
〔推奨の強さ:2,エビデンスの強さ:強,合意率:83%(10/12)〕

特殊な記載方法なので、%って何?と思われるかもしれません。
10/12とは、12人の専門医のうち、ほぼ全員が賛成なのがAIであって、タモキシフェンを使う人は10人程度でしょう、ということです。
弱く推奨する、これまた微妙です。どちらを使っても間違いではない、でも原則AIだよ、と書いている、と解釈してください。いったんタモキシフェンで始めたとしても最終的にはAIを使え、とも書いてあります。逆に、AIで2年治療したらタモキシフェンに変更しろ、ともかいています。
これでは一般の方ではまずどうしたらいいかわからないでしょう。

このガイドラインでは、この根拠となった臨床試験(論文)を2つ挙げています。BIG-1とATACという2つの有名な臨床試験になります。AIはタモキシフェンの後に開発された薬剤です。そこでそれまでに確固たる成績を気づいていたタモキシフェン、つまり標準治療だったタモキシフェンと比較して、どちらが優れているのか、大規模な臨床試験が行われました。将来の標準治療を決める試験をフェーズIIIと呼びます。これはその代表的なものです。

この2つの臨床試験は、閉経後乳がん患者さんを4000人近く集めて、2つに分け、1つのグループはタモキシフェンで治療し、もう一つのグループはAIで治療しました。そしてAIのほうが”有意に”優れているという結果が出たのです。それを今から提示します。(この”有意に”のフレーズが重要です。第1回を参考に

ただ、ここで注意しておいてほしいのは、それだとガイドラインでタモキシフェンを推奨する先生が0でもいいですよね。8割の先生がタモキシフェンでもいい、としている。問題はそこにあります。AIが優れているなら、タモキシフェンは使うべきではありません。命がかかっているがん治療において、常に最善が標準治療です。このコラムが最終的に説明したいことはそこになります。
そのことを念頭において、とにかくAIがタモキシフェンよりどれくらい優れていたのかを見てみたいと思います。

まずはBIG1トライアルの結果からです(Regan MM: Lancet Oncol. 2011;12(12):1101-8.)
グラフは開始すぐから離れ始めて、きれいに分かれてしまっています。このグラフは最初は100%の患者さんが再発無しに生存されていた。しかし時がたつにつれ、再発や、また乳がんになったりすることで健康な方は減っていきます。10年経過して最終的には70%前後まで落ち込んでしまう、それを表しています。そして最後まで青線、つまりフェマーラを使用していた方が、赤線、タモキシフェンを使用した方を上回りました。
グラフの中ほどに”HR 0.82”と記載があることに注目してください。
これは、フェマーラはタモキシフェンと比較して乳がんの再発を18%さらに抑えた、つまりタモキシフェンで再発する方を100とすれば、フェマーラでは82になる、という意味になります。

アリミデックスとタモキシフェンを比較したATAC試験もほぼ同様の結果でしたので、グラフは示さずに”HR 0.86”のみ示します(Cuzick J: Lancet Oncol. 2010;11(12):1135-41.)

この結果からはどう考えても、タモキシフェンよりもAIの一択です。

もちろん閉経前の方であっても、LH-RHを併用してAIを使用しておくことで、再発予防がより期待できる。
それでもなぜ医師の8割はタモキシフェン使用を認めているのか?
実際タモキシフェンを飲んでおられる方も多いはずですよね。特に閉経前の方ではそのはずです。

長くなりました。まだまだ続きます。

ホルモン剤を飲んで、治療するということを、もう一度考える。第4回
(クリックで第4回にジャンプします)