乳腺と向き合う日々に

2023年03月

2023.03.13

「先生、乳がんって触ってたらわかるんですか?」

「先生、乳がんって自分で触っていたらわかるものなんですか?」

これ、よく聞かれる質問なんです。年に1回、2年に1回、いろいろなペースで検診されておられる方がおられますが、原則すべての方に定期的に自分でも触るよう、自己検診はするように勧めます。その際によくされる質問です。

ただ、乳がん患者さんは検診を受けて発見された方ばかりではありません。自分自身で気づかれて受診される方も多くおられます。残念ながらまだ検診で見つかるよりも多いくらいなのです。
私は自分自身が担当させていただいた7000名近い患者さんのデータベースを持っています。その集計として、自分自身で乳がんに気づいて受診される方が患者さん全体の6から7割程度になります。これだけ健診が言われていても、やはり自分で気づいて見つけた方が実は主なのです。
それからいえば「乳がんは触っていたらわかるのですか?」という質問は意味がありません。
「進行がんになれば、大きくなってくればいつかはわかるでしょ。」それだけです。

ここでは質問の仕方を変えるべきです。
「先生、乳がんって、自分で触ってわかったら何cmなんですか?」
「先生、乳がんって、自分で触ってがんを早期で見つけられますか?」

プレゼンテーション1

このことは以前も触れたのですが、がんは原則としてサイズが大きければ大きいほど進行がんです。転移をきたしている可能性が高まるからです。できるだけ小さく見つけることが重要です。

乳がんは大きさから言えば2cm以内に見つければ早期がんである可能性が高いです。
そこに崖があります。
実際にはリンパ節の転移まで確認しないとわかりませんが、それは検診では正確に診断できないので、検診の段階では2cm以内に腫瘍を発見することがとりあえず早期発見の具体的な目標になります。

図に示したように、ビー玉がかろうじて2cm以内の目安になります。

患者さんに先に述べた質問をされたとき、僕はいつもこう答えるようにしています。

「まずはお風呂に入って、時々はスポンジやタオルでなく、自分の手で乳腺を洗うようにしましょう。」
「そのときもし自分の乳腺にゴルフボールが入っていたらわかりますか?」

さすがにわかります。多くの患者さんはそう答えられます。
もしゴルフボールを見つけて放置していたら大変なことですよ。その時はまずこう考えましょう。
「これ以前にもあったかな。前回検診を受けたとき、こんなしこりあったかな。」

もしそれが今までなかったものであったなら、1日も待ってはいけません。すぐにどこでだっていいので医療機関を受診してください。いいですか、クーポンで検診してはいけませんよ。検診は”症状がない”方に限定して行うものです。症状があるのにそれを調べることには向きません。

「では自分の乳腺にビー玉が入っていたらわかりますか?」

うーーん、厳しいですね。でもわかると思います。

「それでぎりぎり早期でしょう。体形や、位置にもよりますがビーズ玉はおそらく無理ですね。」

この会話を覚えておいてください。
つまり自己検診は、自分の乳腺にいままで気づかなかったビー玉に気づいたらすぐに医療機関を受診する、究極そういうことになります。
気づかないものを気づくようにすることはできません。
わからないものをわかるようにする訓練もありません。

気づいた時に正しく判断して、いかに早く行動するか、それしかできないのです。
繰り返します。もし自分で乳腺を触っていて、”いままで気づかなかったビー玉に気づいたら” すぐに検診ではありません、医療機関を受診する。これが真髄です。
もちろん乳腺が痛い、違和感がある、今までにない張りを感じる、こういう自覚症状があるときもとりあえず触りましょう。そしてゴルフボールを見つけたときは大変です。ビー玉はないかな、と探しましょう。とにもかくにも、前回検診を受けたときになかったはずの乳腺に起こった変化、それが重要です。
覚えておいてください。