乳腺と向き合う日々に

実際にDCISと診断され、手術をどうするか、悩まれている方へ

私はこのブログの中で、DCISは前がん病変であって、皆さんの認識している命の危機に直結するがんとは異なる、という立場の論文をたくさん紹介してきました。もちろん今でもそう思っています。
これについてはぜひ先にこのブログを参照ください

そして実際にDCISと診断され、これから手術を受けようとする患者さんにとって、これが悩まれる原因になりえることも認識しています。しかしだからと言って情報を発信するのを控えるのであれば、最初からブログなど書かなければいい。情報の選択はしますが、正しいと思ったことは責任もってこれからも発信していくつもりです。

DCISの問題以外でも、様々な患者さんから、セカンドオピニオンとして問い合わせをいただくことがあるのですが、その中でもやはり、相談される方に時間的にも余裕がなく、説明も難しい問題が、題名でも触れた、「実際にDCISと診断されたのですが、本当に手術を受けないといけないのでしょうか?」の問題です。今回のブログでは、患者さんとの間で実際に行われたやり取りを紹介しながら、これを悩まれている患者さんの意思決定の助けになればと考えています。

スペース

まず患者さんの訴えについて、疑問について紹介します。

患者さんは以下のような考えをお持ちでした。
1 DCISであれば急いで手術しなくてもよいのではないか(前述のとおり、たしかに私はCOMET試験の結果としてそのことをブログで紹介しています)
2 ホルモン療法(例:タモキシフェン)で様子を見たい
3 切除せずに経過観察する、あるいは低侵襲治療の可能性を探りたい 

これに対して私が述べたのは

「経過観察」という選択肢について 近年、DCISに対して手術を行わず経過観察をしても大丈夫だとする結果を出した、臨床試験も存在し、またそう考えておられる乳腺専門医も多いと思います。

ただしまず最初に、すべてのDCISがそれに当てはまるわけではありません。つまりDCISにも低リスクのものと高リスクのものがあるのです。高リスクの場合、これはつまり”偽の”DCISの可能性があるもの、となります。有名なCOMET試験においては、臨床所見上浸潤性疾患の証拠がない、核の異型度が低く、Grade 1-2である、ホルモン受容体陽性、HER2 陰性の低リスクの DCIS を持つ 40 歳以上の女性を低リスクと定めていました。つまり切除しないという選択肢は、一定条件を満たすDCISの場合に限って検討されたもの、ということになります。

加えて、現時点では論文の発表の段階であって、一般的な標準治療として確立されていません。だから経過観察は保険診療として認められないのです。 たとえば経過観察を選んだとしても、その経過観察をたとえばマンモグラフィだけですればいいのか? MRIを併用するのか? 超音波検査で行うのか? そしてそれは1年おき? 半年おき? 決まっていません。だからもしMRIで経過観察してもらおう、と患者さんが決めたとしてもそれは保険適応にすらなりません。医師がMRIでの経過観察を選んだとしても基本それは同様です。

先のブログでも述べたとおりです。

1 DCISと診断はされました。しかし5%は含まれていると思われる”偽の”DCIS、実は浸潤がんだった時の責任はだれがとるのか?

2 シェリー・ファン先生が真のDCISは経過観察をしても大丈夫だということを明確に示した、とはいえ、それは確定はしていません。そんな状況で、たとえ2年間であっても、あるいはその後の一生であっても、だれが責任もって”積極的モニタリング”を行っていくのか?(近くにファン先生がいれば別ですけれども)

この二つの答えはまだ出ていません。研究結果が出たとしても、それを実践するには解決しなければいけない課題があります。たとえこの1,2が解決できたとしても、わが国においては、積極的モニタリングを選択したときに、そのための保険診療報酬まで整備されていなければ、医療機関では実施できません。

新しい抗がん剤が開発され、学会で効果が証明されても、明日から使えるわけではない、それと同じ構図です。

法的・現実的な問題

上記の赤枠で囲んだ文章の1、2が非常に重要なポイントになります。これを法的、さらに現実的な観点から述べればこうなります。

現在 標準治療(手術)とされている治療を行わずに病状が悪化した場合、 医療訴訟では不利になる可能性が高いです。医療は「患者と医師の信頼関係」で成り立つが、医療訴訟の現場では、最終的に残された家族との係争になることが多いため、信頼関係はそこでは存在しません。

そのため医師個人の判断で、標準治療ではない、「手術しない方針」に積極的に協力することは難しいのです。

ホルモン療法の限界

患者さんはホルモン療法への期待を持たれていましたが、ホルモン剤は「増殖を抑える薬」であり、がんを消す薬ではありません。確かにDCISから浸潤がんへの移行を防ぐ効果は期待できますが、それを行うことは標準治療として確立されていないのです。腫瘍内部には多様な細胞が存在しすべてが同じように反応するとは限りません。そのため長期的に安全とは言い切れません。COMET試験の結果も2年間に限定されていました。

ただ微妙ではありますが、ホルモン剤の投与そのものはDCISが証明されていれば保険適応になります。その運用が標準ではないことになりますが、保険診療としては認められるでしょう。術前ホルモン療法は保険適応だからです。患者さんが手術を納得されるまで、できるだけ悪化を防ぐ目的で医師が使用するのなら問題はないからです。

ただし、ここでも、標準治療ではない治療法として、ホルモン剤でDCISを長期で経過観察をしていて、もし悪い経過となった時、だれがどう責任を取るのかの問題が出てきます。加えてCOMET試験が標準治療に組み込まれても2年までです。結局2年後にはどうするかの問題が出てきます。

全適後の再建も含めた治療戦略

患者さんは再建も視野に入れていました。

残念ながらDCISは、早期乳がんであるにもかかわらず、切除の際に全摘の適応になることも珍しくないのです。これが患者さんにとってさらに抵抗感の原因になります。

ただ現状、DCISを切除して、全適後に限らず乳房再建を行うことは標準治療であり、保険適応です。そして浸潤がんではなく、DCISの段階で治療すれば 再建の選択肢が広く、結果も良好になりやすい。つまり早期であればあるほど、治療は美容面で有利になります。

DCISに対する治療選択

ここまで述べてのべてきたように、DCISに限らず、医療行為はすべて「医学的に可能か」だけでなく、「社会的・法的に許容されるか」 「将来の不利益をどう考えるか」 まで含めて判断する必要があります。

医師としての結論はシンプルです。経過観察を希望する場合、 厳密なフォローとリスク理解が必須になります。そして 改善がない、または不変であれば早期治療を強く推奨します。かといって現状2年間の経過観察をすることは標準治療とは言い難く、またフォローする方法も確立していません。保険適応かどうかも疑問があります。だから主治医は常に1日でも早く手術を勧めるのです。

理由は明確です。DCISの段階で治療できるか 浸潤癌になってから治療するか この差は極めて大きいからです。

ただ手術には患者さんの同意が必須とされています。たとえ医療において確立された標準治療ですら、患者さんの同意なしには施行できないのです。どこまで行っても、患者さんがその治療方針を、納得して選んだか、それがもっとも重要な要素になるのです。

ですから、医師がどれだけ勧めたとしても、患者さんが納得し、手術同意書にサインしない限り、手術は行われず、結果として見かけ上は経過観察されることになります。ただこの際に医師から「命の保証はできません」と言われることがあるでしょう。しかしこれは決して冷たい言葉ではなく、「この選択はあなた自身の判断になります」という意味です。

学会では・・・

最後に、現在日本乳がん学会ではDCISの手術についてどのように記載されているか、引用したいと思います。興味があられたら、医師用に書かれた文章ですが、読んでみられることを勧めます。
2026年5月現在 ここから読めます。

「安全に非切除を行うことが可能な群を探索する前向き試験が世界で行われているが,どのような非浸潤性乳管癌に非切除を安全に行うことができるかは明らかではない。」

「患者の中には手術を希望しない方も存在する。しかし現時点では,非浸潤性乳管癌に対して安全に非切除を選択できる群は明らかではないため,基本的に切除が勧められる。」

私が最初に述べたとおり、そういった選択肢が正当であることは医師も認めている。ただ標準治療として確立しているとはいいがたく、現状では手術が第一選択であり、標準治療である、とする立場になります。