乳腺と向き合う日々に

DCISの手術における”断端”の問題

非浸潤性乳管がん(=DCIS)についてはこのブログでも何度も触れてきました。DCISについての説明はそちらをまず参照してください。

ご存じの通り、DCISは超早期がんとされます。皆さんの感覚的にはいわば前がん病変です。
DCISは転移しません。したがって再発しません。きちんと取り切ってしまえばその意味からは確実に根治します。

ただDCISに限らず乳がんは、乳腺の組織の中に埋まりこんでいます。もともとがんと正常な乳腺組織は目で見ても区別はつきにくいのですが、手術の際には外科医は乳がんを、埋まりこんでいる正常な組織に包み込むように切除するので、結局外科医はがんを目で確認しながら切除しているのではないのです。

がんが肉眼的に目で見て判断できるものだったとしても、見えてしまえばそれはとり切るどころか、がんに切り込んでしまっています。見えないようにとらないといけない。あんこ餅を作っているとして、どこから見ても真っ白なおもちにする。あんこが漏れたらいけない。でももしあんこが白かったら漏れてもわからないので、そもそも包むのは難しい。みたいなものでしょうか?(漏れても真っ白ではあるかw)

手術は人の手によって行われるので、”きちんと”取り切れているかどうか、それは古くて新しい問題です。

DCIS Macro1

この写真は DCISで切除手術を受けられた方の病理標本です(苦手な方には申し訳ありません)

手術で摘出された乳腺組織は、ホルマリンで固めた後、このように病理の先生が薄くスライスして検査をします。そしてマッピングといって、図の水色で書かれたラインの部分ではDCISがありましたよ、と教えてくださるわけです。これで見る限り、縞模様に見えますが、この縞と縞の間は、がんがないのではありません。ナルトを薄く切ったら渦巻きが見えますが、あれはどこを切ってもあの模様です。

DCIS Macro2

つまり顕微鏡で観察すると、上の図のようにがんは広がっていたのではないか、と推察できるのです。DCISは地中で広がるジャガイモの根に、じゃがいもができてくるみたいなでき方をするので、こうしてスキップしていたり、形も凸凹していることが決して珍しくありません。

そして右下にある黄色の矢印の部分、ここで、がんと切除断端が一番近接していることが分かります。この図では5mmは確保できています。実際の手術ではこの断端距離の確保の目標は決まっており、それを目指して外科医は努力するのですが、繰り返しになりますが、肉眼ではがんをがんとして正常組織と区別がつけられない以上、それをmm単位で調整することは物理的に不可能です。

JAMA Surgeryという信頼性の高い学術誌に、このDCISと断端の問題に関する研究結果が最近発表されました。ホルモン受容体陽性のDCISで、切除断端にはがんを認めない(=これを断端陰性といいます)ことが病理結果として出ている閉経後女性が対象になりました。

登録は2003年1月6日から2006年6月15日まで、NSABP加盟の大学病院および地域病院で行われたもので、研究データは2024年7月から2025年4月にかけて解析されました。

 もともとの乳房部分切除術の切除断端の距離のデータ上、1mmマージン幅の分割グループに2707人の患者が、2mmマージン幅の分割グループに2546人の患者が含まれました。

同側(がんの切除を受けた側)乳房内での腫瘍再発は最も一般的な最初のイベントであり、2707人の患者のうち90人(3.3%)に発生しました。マージン幅が1mm未満の502人の患者のうち24人(4.8%)マージン幅が1mm以上の2205人の患者のうち66人(3.0%)でした。

マージン幅の判別閾値として 2 mm を使用した場合、マージンが 2 mm 未満の患者 879 名中 39 名 (4.4%)マージンが 2 mm 以上である患者 1667 名中 49 名 (2.9%) が同側乳房内でのがんの再発を経験しました。

この補助解析の結果から言えることは、閉経後ホルモン受容体陽性のDCIS女性において、乳房温存手術、全乳房照射、および補助内分泌療法を受けた場合、切除縁幅を1mm未満または1mm以上とした場合と、切除縁幅を2mm未満または2mm以上とした場合のIBTR率の絶対差は小さいことを示しています。

この距離がないから再手術をして全摘する、という考え方は不要なのではないか、ともいえるのではないでしょうか?

人間がやることなので、どんなに気を付けても2-3%ではエラーが起こってします。とすればそこは許容した上で、手術の方法を考えていく、という考え方をしないと、なんでもかんでも根こそぎ切除してしまう、という以前の手術に逆戻りですよね